フィン&ラケシスの次男普及委員会(仮)

開花した想い

もしも二人が出会えなかったら、こんなことはなかった。これほどにも「嬉しい」という感情を味わうことはなかった。
ベッドから起き上がったラケシスは、羽毛のふとんを足にかけ、外を見ている。窓から差し込むやわらかな陽光がベッドを照らす。
木々は枝から葉を落とし、大地へと吸い込まれていく。
木の下は枝から離れた葉が山となって積もっていた。風が吹く
と、葉は宙へと巻き上げられ、風に乗って周囲に散ってゆく。


レンスターにも秋がやってきた。
ベッドの横にはコバルトブルーの髪をした夫のフィンがいる。
彼の腕にはベビー布団にくるまれた赤ん坊が安らかな寝息をたてていた。赤ん坊は彼女とフィンの間に授かった息子、ヴェールンドだ。
「もうあれから何年たつんだろうな」
フィンは、赤ん坊をあやすようにして、体を上下に揺らしていた。
ラケシスはフィンの方を向いた。
彼の腕の中でヴェールンドが気持ちよさそうに眠っていた。
「そうね……。気がつけば私たちの間には第三子がいるんですもの」
ラケシスはそっと瞼を閉じた。
「また秋が来たな」
「そうね。デルムッドがまだお腹にいた頃を思い出すわ」
フィンと人生の何年かを引き離されることなど知らなかったあの日。今では大人の道を歩きつつある息子のデルムッドがまだ彼女の腹の中にいた頃だった。
シレジアの山々を紅く染めていた紅葉の頃……。


フィンの腕の中には青空を映し出したようなコバルトブルーの毛髪を持つ赤ん坊がいた。第三子にあたる、我が家の次男坊だ。
今までの子供たちと違い、髪の毛の色も質も目の色も全く異なる。ラケシスの夫でもあり、子供の父親にあたるフィン似の容姿であった。
長男デルムッドや長女ナンナは母親似で金髪、そしてうねりのある癖毛。しかし、第三子のこの子は父親似で青髪で直毛だ。
「ヴェールンドはあなたに似ているわ。将来はきっと素敵な騎士になれる。デルムッドは剣使いだけど、この子はきっとあなたのような槍の達人になれるんじゃないかしら?」
「そうかな。まあデルムッドが槍の道を行かなかったのはある意味で仕方ないことだが……」
「デルムッドは確かに槍を扱えない。でも、剣使いのヘズルの血に恥じない騎士になれたと思うの。それをかんがえれば、デルムッドに剣を教えてくださったオイフェどのには感謝していますわ」
デルムッドは物心付いた時に既に親元を離れていた。彼に剣を教えたのは剣使いバルドの血を引くオイフェだ。オイフェはパラディンという職業がら剣と槍を使いこなすが、やはり剣使いの血筋が手伝ってか槍より剣の腕の方が優れていた。
さらに、イザークで育った他の仲間たちもみな剣使いの血筋ばかりだったので、自ずと剣術だけを学ぶようになったのだろう。
「フィンを父として、師匠として慕っていけばヴェールンドは将来のランスリッターを担う人材の一人になれるわ」
「私の槍などたかがしれています。槍に長けた人間はこの大陸の中にもごまんといる」
「フィン、どうしてそんなに謙遜するの? あなたは素晴らしい槍使いだわ。聖戦士の血を引いていなくても、それに負けじ劣らじの腕前よ」
「ならば、遠慮なくヴェールンドには槍を仕込ませていただきます。騎士として顔の立つ人材に」
「そうね……」
ラケシスは微笑んだ。
レンスターの王子と結婚の決まっている長女のナンナ。将来、レンスターの王妃になるであろう娘のことを考えても、ヴェールンドには一国を担う立派な騎士になってもらいたいとラケシスは親心ながらに思っていた。
秋の空には鰯雲が魚のうろこよろしく広がっていた。
あの時の秋、彼女の腹の中にいたデルムッドも今や一国の王の傍らにて補佐を務めている。
窓から透き間風が吹きこんできた。ほんのり冷たい風だった。

初めて書いたフィンラケ次男のお話です。
ラケシスは生きています。そう信じたい私は次男普及に取り組んでいきたいと思います。私的にヴェル坊ちゃんはランスナイト→デュークナイト希望です。リーナンカプの場合、さらに彼の活躍が期待できそうです。