フィンラケ祭り投稿文より全文転載。
(......キス)
爽やかな朝の日差し。少し肌寒いが清々しい空気。
さて、そんな中、
(おはようの......キス)
早朝の清澄な雰囲気を感じ取る余裕など全くなく、やたら眉間に皺が寄った難しい顔で、フィンはひたすら悶々と悩んでいた。
そんな彼の耳朶を打つのは、愛しい恋人の寝息だけ。
伏せられた長い睫毛。幸せそうな顔をして眠るラケシスを見下ろし、けれどやっぱりフィンは難しい顔を崩せない。
幾度となく繰り返した問いを、再び自問する。
(おはようの、キス......どこに?)
くだらない問題だと気づくこともなく、ひたすら真剣に悩んでいる。
先に起きたときは、『おはようのキス』をして起こしてくれと言われた。実際に起きてみても彼女の姿はなく、彼女が自分より遅く起きることはいつものことでもあるので、こうして起こしに来てはみた。
――そこで、詰まった。
『おはようのキス』......それは普通どこにするものなのか、フィンは本気で分からないのだ。
(どうしよう......)
もう起こさなければならない時間。そして、彼女が自分で起きる気配はない。
ならば、やはり自分がどうにかしてやらねばならないのだろうが......
もし間違ったところにしたら。......ラケシスはきっと怒るだろう。彼女はそういう女性である。
(ほっぺた? おでこ? ......それとも......)
彼女の桜色の唇へと視線を落とし、フィンは我知らず頬を赤く染めた。
今更照れるような間柄でもないだろうが......それでもやっぱり、フィンはこうしたことに非常に疎い。朴念仁といわれようと、慣れないものは慣れないのである。
けれど、いくら悩んだところで答えが出るわけでもなく、ただ時間が過ぎていくばかりで。
そして、その猶予も既にないのだ。
「............」
ラケシスの寝顔を見下ろし、こくっと小さく喉を鳴らす。
そして、ようやく意を決し、フィンは彼女のベッドの端に手をついた。
近づいていく顔と顔。それに反比例するように、心臓の音はどんどん大きくなっていく。
――やがて、
「起きて......ください」
互いの吐息が顔にかかる距離。
眠る彼女に、躊躇いがちに囁いて。
フィンは、かすかに頬を染めたまま、彼女の唇へと口付けを落とした。