裏部屋更新文より全文転載。
俺が弓の練習をして、デュー叔父さんが認めるくらいに上手くなったら、その時は今まで話してくれなかった全てを教えてくれる――
その約束を信じ、俺は次の日から早速弓の稽古の時間を取ることにした。おもちゃの弓と鏃のない矢を使い、毎日決まった時間に、同じだけ射る練習を繰り返す――そう自分にノルマを課したのだ。
だがその内容は、稽古というよりむしろ試行錯誤に近かったかもしれない。基本から叩き込んでくれる存在など当然いない。構えも射方も、果ては弦の張り方から手入れの仕方まで、全てが全て自己流である。あれやこれやと試してみて、その中で一番いい方法を探っていくしかなかったのだ。
はてさて。
その日を境に俺の行動パターンが変わったことに、パティは勿論すぐに気がついた。
そして、当然のように言い出した。
「お兄ちゃん、それなぁに?」
「弓。危ないからこっち来るなよ。つーか、練習中なんだから邪魔すんな」
おっかなびっくり弦を引き、目標と決めた太い木の幹に狙いを定め、拙い手つきで木の矢を放つ。
カツンと音を立てて命中。うん、今のは割と良かった気がする。
そんな俺を横、初めのうちこそ、パティは言われたとおり、少し離れたところで大人しく俺を眺めていた。
が、それも大して長くは続かなかった。
「ねー、お兄ちゃん。それ、あたしもやってみたい」
「あ? ダメダメ。危ないって言っただろ」
「ケチー」
「ケチで結構」
「むぅ。あたし、デュー叔父さんに遊んでもらおっと」
つまんないとばかりに唇を尖らせ、パティは家へと入っていった。
その背中を見送って、
「......ま、いっか」
軽く呟く。
せっかく邪魔者が消えたのだ。今のうちにもっと集中して練習しておかなければ――そう思うことにして、俺は改めて次の矢を右手に持ち直した。
――家の中で、デュー叔父さんとパティが何をしていたかなんて、俺は知りもしなかった。
その日の夜、「叔父さんに貰ったの! 使い方も教わっちゃった!」とパティが自慢げに見せた鍵開けの道具に、俺は今度こそ眩暈を覚えた。